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2011.11.27 Sunday
一本の木
町に人が蠢くように、森は樹々で溢れている。山の細い一本の小径を歩きながら数多くのものを見落としている。森を森として見ることなど小さな者には到底叶わないのだ。なのに、出会った。たった一本の木に気づき、雪に塗れひとしきり見つめていると、本当はその一本に見られていたのだと知る。ずっとここで木が待っていた。葉を落とした今だから、出会えた。脱ぎ捨てなさい、あなたも、本当に出会いたいなら。たった一本の木から、森の声が聞こえた。
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2011.11.22 Tuesday
「化け野」
あれよあれよと言う間に詩人になってしまった友が二冊目の詩集を出した。表紙にぼくの写真を検討しているとの相談を受けランチをご馳走してくれたあの日、見本の表紙を見て、軀の中で沸き立つものを感じた。喜びともちがう、興奮でもない、もちろん落胆でも羨望でもない、そんなちっぽけな人間の感情とは無縁の、形容し難い感覚だった。詩集の題名は「化け野」。その下には著者名、大野直子。背景には枯れゆく向日葵の白黒写真。ひと目で気に入った。友が詩人になりはじめたころから、その友のこの友も変わりはじめていた。そうだ、この名のない感覚は、同士を讃える讃歌を披露する場があるなら、そのとき歌いながら感じるものに似ているだろう。
友からの謹呈の一冊に添えられた一文にも震えた。「プチ更年期障害を患っても、介護鬱になりかけても、悲しいことがあっても、詩で書き倒し(言葉は悪いですが)、笑い飛ばし、やり過ごしてきたようなところがあります。まさに、生活の中に詩があり、詩の中に生活がありました」。まさにぼくもそのようでありたい。自ら作り出してしまった壁をそうやってぶち壊し、行きつ戻りつしながら世界に開かれて行きたい。
何日もかけて、ゆっくりと読み進めて、いま終わったばかり。何がしかでも感想を書き留めておきたいのに、叶いそうにない。評論でもあるまいし、今またふつふつとわき上がってくるものを簡単に言葉に置き換えてしまいたくない。ただ、詩人とは凄いもだ。友がその仲間入りをした。しかも独自の扉をこじ開けながら。ああ、うれしい。
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日々のカケラ
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2011.11.21 Monday
雨の森
雨の森の虜になった、というほどのものはまだ感じてはいないけれど、どうやら森は雨がいい。登り始めたころ、快晴の青空の下で気持ちも晴れやかに峰を歩くのが山の良さだと思っていた。いくらか慣れてくると悪天候の時でしか出会えないものに気づけるようになった。靄に包まれて身も心も真っ白になるようなひととき、冷たい雨は実はとってもあったかいし、どんよりとした灰色の雲を割いて差す輝く陽光に震えることもある。
荒れた日の山の何がいいかというと、まずほとんどひとりぼっちでいられることだろうか。大きな山に抱かれているから、孤独を楽しむというのではもちろんない。普段は会えない親しい人に会いに行くという感覚に近いかもしれない。だから雨の森には求めて行く。会いたくなるのだから。
十一月ともなると、雨が途中から雪に変わった。雰囲気のいいブナ林の辺りだった。夏には何人かが座ってにぎり飯を頬ばる場所でもある。今はだれひとりいない。森の木々は葉を落とし、幹の無骨にくねる姿ばかりがうっすらと白い中から飛び込んできた。静かな山が騒がしいほどに踊っていた。すると、それを見ている者の心はいっそう静まるのだった。黙って座り込む。身体は冷えているのに、晴れた日では感じられなかった微かな温もりが内で目覚めた。生み出したものでなく、与えられたものだと信じられた。
自然界には人の知らない様々な営みがあるだろう。そのほんのひとつでも深く感じられた人は、おそらく自然の一部になってしまうのだろう。たとえば田畑を耕す、海に船を出す、牛を飼う。どこにでもありそうな一次産業に従事する人たちの深い日常を、街だけに住むいったいどれほどの人が理解できるだろうか。雨の森を歩きながら、原発や津波の被害で自然界から切り離されてしまった人たちのことが、急に浮かんできた。あの方々は単なる職を失ったという程度では済まされなかった。命を捥ぎ取られてしまったも同然だったのだ。それがわかるような気がした。そしてぼくは雨の森のこの温もりを信じることができる。
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白山
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