小さな世界、という言葉に出会ったのは、白山麓僻村塾が去年開いたシンポジウムでだった。錚々たる顔ぶれのパネラーの言葉がどれもぼくの中に響いてきた。都会に住んで田舎を見ている文化人たち、世界を舞台に活躍している作家には、日本の今がよく見えるのだろう。あれ以来ぼくは、その見える人たちの言葉をヒントに、これからどうありたいか、という近未来像を描きはじめている。
小さな世界は、昔の奥まった山村を例にしながら語られた。正確な言葉はもう忘れてしまったけれど、小さな村社会はそれだけでひとつの完全な世界なのだと、ぼくはそのとき想像した。子どもたちは働くおとなたちの姿を肌で感じながら、生きる術も豊かな心も自然な形で身につけていった。冠婚葬祭を含めたどんなことも、村全体が機能したのだ。そうしなければ誰も暮らして行けない厳しい環境だった。支え合うことが、暮らしそのものだったのかもしれない、などと想像した。
今日本はとても便利だ。近代化を旗印に、ひたすら突き進んできた。経済優先の資本主義化、合理化、民主化。それが今の姿だ。失ってしまったものはと、振り返る必要はないんだろうか。これだけ物にあふれ、マスメディアやインターネットから情報を得ていながら、なぜ落ち着かない気持ちになるんだろう。足下がとても不安定な気分に襲われるのは、ひとりぼくの思い過ごしだろうか。無駄だと省かれた中に、実は大切なものがたくさんあったのではないのか。いま、そんな気がしてならない。
昔の村のあり方が完璧に機能する小さな世界だとしたら、現代の街は社会というシステムの中に組み込まれた部品のようでしかない。部品はそれぞれの働きを担いながら機械的にはつながっていても、心という名の安定や信頼、助け合う技や力の交流がほとんどないのだ、と思ってしまう。もはや小さな世界への回帰は不可能なようにさえ思える。
けれども、手をこまねいてひとり自分の営みばかりを追求するよりは、今風の小さな世界が作れないものかと、ぼくなりの方法をずっと考えていた。農家なら契約栽培という多難な道を選んだ知人を知っている。安全とほんとうの健康な暮らしを追求すれば、そこに自ずと小さな世界が作られた。写真でそれができるだろうか。まだよくわからないけれど、まずは動き出してみようと思う。
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「kazesan.net」 。それは、近未来に機能する小さな世界を目指した、仮想の村の通りに開くぼくのお店の名前です。扱う品は、毎日のように撮っている身近なものをモチーフにした写真だけ。それも展示販売する新作は月に一度ほど、こんなのいかがですか? とネット上で呼びかけるだけ。それらは普通に言ういい写真ではないかもしれません。見栄えの良さはなく、飾っておきたいと思う気持ちがわかないかもしれません。それでもぼくは、撮りつづけます。撮りながら、自分がどこまで透明な気持ちになれるものかと、そのためにこそ撮りつづけたいのです。そしてここを一番大切にしようと思いますが、そんな写真と共鳴する人の中でも、自分を見つめる心がどんどん大きくなるような、豊かな夢を見ていたいのです。写真を撮る人と観る人が心でつながり、その心が刺激し合ってさらに深まり広がる。この社会が失ってきたもののひとつを、少しでも取り戻せたら。それがkazesan流の小さな世界にならないだろうかと、思うのです。
取り扱う作品形態は、プリントサイズは当面A4のみで、まずは四つ切りの額裝でご購入ください。これまで同サイズを18,000円で販売してきましたが、「kazesan.net」では、15,000円にしました。次回からは、ご希望の写真に出会った場合、プリントのみをご購入ください。一点3,000円です(従来は10,000円でした)。そのあとはお使いの額をそのまま利用していただき、中の写真だけを変えて楽しむ、という感じになります。
「kazesan.net」ではじめに額裝写真をご購入いただいた段階で、ご希望によりメーリング・リストkazesan.net のメンバーに登録されます。次回からはこのブログだけでなく、直接新作をご案内します。また公開されているぼくの写真の中からでもご希望があれば、いずれもkazesan.net頒価でお頒けいたします。
使用する額は、多様な写真に合いそうなものを選びました。シンプルに引き締まった黒のアルミフレーム、あたたかな温もりを感じさせる木製の緑、高級感のある(実際一番高価ですが)いぶし銀の三点です。飾るスペースの雰囲気にも合わせてお選びください。
写真の額裝はいたって簡単です。写真は、マット裏面の四隅を三角コーナーで留めてありますので、プリントを痛めることなく交換できます。中性紙と厚紙などにはさんで保存すれば、気分を変えたいときに何度もご利用いただけます。
まずは、月の暦新年睦月の新作を改めてお知らせいたします。
kazesan.net 作品頒価
第1回ご購入分 A4プリント(四つ切り額裝) 15,000円
第2回以降 A4プリント(新作公開分) 3,000円
第2回以降 A4プリント(桝野のすべてから) 5,000円
(いずれも送料、消費税込み)
お申し込みは、マスノマサヒロ写真事務所まで
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