kazesan3風の吹くままカメラマンの心の旅日記

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閉鎖病棟





 ぼくはいま閉鎖病棟にいます。そんな書き出しではじまる友人からの便りをもらうまで、その環境はもちろん閉鎖病棟という言葉さえ知らずにいた。ぼくは外に出られませんが、お見舞いならいつでも受けることができます。何人もの友人知人に同じ文面の便りを出しているところを見ると、よほど人に会いたいんだろうと、二度ほど出かけた。行ってみると、どこにも閉鎖病棟などとは表示されていなかった。ただ病棟への入り口は施錠され、友人はガラスのドア越しにぼくを待っていた。看護士に導かれ中に入る。いきなり抱きついて来た友人。この十年ほどたまにふれあう程度の間柄だったから、ちょっとどぎまぎした。

 入り口の脇にある小部屋で向き合い、一時間あまりもしゃべった。ほとんど聞いているだけだったが、友人はいったいどこが具合悪いのか見当もつかなかった。普通に会話し、普通に怒り、普通に泣いて、ぼくとちっとも変わらない。

 電話もかかってきた。ダライラマ法王の本を読んでいたとき、相部屋の三人が卑猥な話ばかりするのにいらいらして、ついに暴れたそうだ。そのあとの四日間、独房のような小部屋に閉じ込められひとりで過ごしたという。閉鎖病棟の中には、さらに閉じ込めるための隔離室があるようだ。返す言葉もなく黙って聞いていると、それじゃと言って、電話は切られた。
 
 友人からは割と頻繁に手紙が届く。「あいつらは馬鹿なんです。無視すればいいのに、暴れた自分が恥ずかしい」と二度も書いてくる。同じ内容の便りだと返事に困るが、会話気分の書き言葉でやりとりすることにして、これからは見舞いには行きません、手紙にします、と伝えた。いくらか誤解があったようだが、面と向って適当な会話をして帰ってくるより、友人と真剣に向き合う機会にしたいと思うから。

 友人とぼくはどこが違うんだろ。ぼくもいつも、この世の中にいらいらしている。東日本の大災害からまだ一年だというのに、たまたま被災地ではなかった町の暮らしはいつもと変わらず、旨い物を食べ、酒に酔い、音楽を聴き、好きでもない相手とセックスに興じ、ネット上でそれをやりとりしている。まったく人間っていったいどういうつもりなんだ。それでお前は? と振り返る前に、世の中の嫌気が差す面ばかり気になる。これじゃ友人とおんなじ。違うのは、まだ暴れていないという程度のことばかり。

 原発事故は一向に収束する気配がない。現場では死に物狂いの作業が続いているだろうに、政府も東電も、まるでのほほんとしているように感じる。福島県民は怒っているのに、そうでない県民は、怒っているだろうか。おとなしい日本人、行儀がいいんだ、みんな。ぼくももちろんそのひとり。

 友人への返事には、去年の初冬に白山帯の森を歩いて感じたことを書いた。山を歩きながら撮る写真は、ひと際目立つ大木だったり絶景だったり、とにかく特別この気を惹く対象がほとんどだったが、その日、舞い出した雪で埋もれて行く森の雑多な美しさに気づいて目を見張った。森にあるのは巨樹ばかりでないことぐらい知っているが、実際には森のなにひとつも見ていなかった。森は本当にありとあらゆる姿の樹々で埋め尽くされていた。折れて朽ちてゆく小枝が土に還る。草木、鳥や獣、名もない土中の微生物さえ、すべてが森をつくる担い手だった。その上でそそり立っているに過ぎない大木は、足下の小さな生き物たちをどう見ているのか。木を見て森を見ずとは、まったくよく言ったものだ。

 見えるものばかりに気を取られていると、その場の雰囲気というものを感じないで済ませている。出来ることなら、目は閉じていたほうがいいくらいだ。ことに森では、存在は瞑って視なければ感じられない。このごろ里山を歩きながら、そう思うようになった。森の巨樹もいいけれど、まるで乱舞しているような目線の高さの樹々がいい。森はまさに踊って混沌としている。その中に迷い込むがいい。森を歩く醍醐味だ。

 友人は、なぜ閉鎖病棟にいるんだろう。暴れるから? ぼくもときどき暴れたくなる。この世の中も、閉じているのかと思うことがある。だからでもないが、見えないものまで感じようとすればいい、森を歩くようにして。




































| 16:10 | 日々のカケラ | comments(0) | trackbacks(0) | posted by マスノマサヒロ |
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