kazesan3風の吹くままカメラマンの心の旅日記

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五分前!

 

 なんでこんなに、たかだか雑誌にすぎない『風の旅人』が気になり、いつも手元に置くようになったんだろう。ことに創刊号には、作り手の特別な気持ちがこめられているような気がする。

 「生の器、死の器」と題した123ページには、田村隆一「ぼくの聖灰水曜日」が掲載されている。


  エピローグがプロローグに
  独白が対話に
  対話が劇になる瞬間

  その瞬間を閃光がつらぬき
  空白が広がり
  沈黙が雷鳴のごとく鳴りひびかなかったら

  言葉は人間をつくってはくれない
  言葉が崩壊すれば人間は灰になるだけだ
  この灰を掻きあつめる情報化社会の奴隷たちに

  五分前!


 ぼくなどには詩の言葉はたやすくは入ってこないけれど、こうして日を空けては何度か読んでいるうちに、稚拙でもときどきの思いを楽しめるようになった。

 空白や沈黙という代物が、やるせなくなるほどにぼくの暮らしには充満している。これではせっかく生まれてきたことを活かしてはいないだろうと、つい思いこみ、それでますます深みへと落ちていく。

 けれども、「言葉が崩壊すれば人間は灰になる」しかない。いつそうなってもおかしくはないけれど、未だ灰になれない人間としての、何分か何年か前の、空白と沈黙が、不確ながら頑として、ここに存在している。そしてそれは、まるで雷鳴を待っているかのように、でもある。そう思うといくらか前を見て歩こうかと、勇気にも似た気持ちが湧いてくる。

 5ページの「森羅万象と人間」の扉には、こんな言葉が添えられている。


  大いなる自然はただ存在する。
  ひたすら静謐で、かぎりなく威厳に満ち、
  人間の思い入れや共感とは無関係に、ただ美しく。
  大いなる自然の前で、人間は死すべきものとして
  我が身の絶対の現実が露になる。
  永遠から永遠へと吹き過ぎる
  風のようなおのれに気づかされる。
  その真実を、当たり前のことのように
  受け入れる我が身の中のおのれを知る。


 これこそ、『風の旅人』にある真ん中の思いだろうか。気ままに風に吹かれてきただけの自分とのちがいに愕然とし、それでいて、どこかおなじ気持ちを持っているおのれの存在を想像したりもする。

 満月の白山の頂を歩いたときのことを、いまも忘れないでいる。世界の片隅の日本という島国の、さらにまだ辺境の北陸に小さくとんがっている白山で、あのとき宇宙と言ってもいいような、時間だか空間だか知らないが、とにかく壮大なスケールで流れ揺れているものが自分自身なのだと錯覚したことがある。夢か幻なのだ、この地上のすべては。たしか、そんなことをあのとき、風のような気分で感じていたのを思い出す。

 98ページの「いのちの興」の扉にある言葉こそは、足掻きながらも生きるだけは生きていこうとする者にとって、これ以上ない力を与えてくれる讃歌だろう。


  この世ならぬことどもを味わうためには、
  この世のことを知りつくさねばならない。
  極大から極少へ、瞬間から久遠へ、虚も実もなく、
  私たちの住む世界のありとあらゆる枠組みをぬけて、
  人間のはるかなる彼岸までも生きなければならない。
  暗くぬらぬらと官能的で深い人間の業を熾烈に食らい、
  東西の思潮、文化・風俗を融通無碍に習い遊び
  よろこび、かなしみをこまごまと織りなして
  創っては壊し、また創っては壊し、また創っては壊し、
  有のなんたるかを知り、無のまことの意味を知りたい。


 ほんとうは、おたおたしてはいられないのだ。人生にはそれぞれに持ち時間がある。それらは、灰になるだけの人間の、なんともふかしぎな閃光のとき、演じる舞台の上の瞬間でもあるのだ。

 『風の旅人』に掲載された写真たちは、それを愛好する者には瞠目させられるものばかりだが、それ以上に幼稚なぼくを目覚めさせてくれるものは、佐伯さんのこの言葉たちだった。


  この世ならぬことどもを味わうためには、
  この世のことを知りつくさねばならない。
 
 そして、

  五分前!





























| 14:22 | 日々のカケラ | comments(0) | trackbacks(0) | posted by マスノマサヒロ |
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