コロコロと予定が変わり結局空いてしまった一日は、すぐに山歩きに決めた。釈迦新道の紅葉はどんなだろうかと気になっていたから、グッドタイミングだ。朝の空気はそれが山ならもう言うことはない。呼吸しているだけで生きる力が湧いてくる。お目当ての紅葉は、麓近くのブナ林まで下りて来ていた。澄んだ光を濾して、どれもこれも見とれてしまう美しさ。一本一本を見てやろうと、ゆっくりゆっくりと歩いた。撮っていると歩き馴れたスタイルの女性に追いつかれた。「山が燃えているわね」と満面の笑みを浮かべている。「ほんとやねえ」とすぐに返事をしながら、まるで旧友にでも出くわしたような気安さを感じた。でもぼくは燃えていると感じているわけじゃなかった。色づく木々はただ美しく、わざわざほかの言葉で形容する必要を感じなかった。思わず見とれて、ため息をつく。何度もそれを繰り返し、ぼくもすっかり秋色に染まった気分だ。こんなにも秋を満喫したのは、生まれて初めてのことかもしれない。白山の秋はいましばらくつづく。