kazesan3風の吹くままカメラマンの心の旅日記

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
下りる決断
 南竜山荘の夜は板張りの床にシュラフだけで横になった避難小屋よりはずっと快適だったが、未明の雨や風の音を聞きながら、すこし投げやりであきらめににも似た気持ちになった。外に出る気にもなれず、サッサと朝食を済ませ、テレビで報じられている台風九号の情報に注目した。台風は太平洋上を東進しているようだったが、兵庫などを襲った豪雨が白山へも影響しないという保証はどこにもなかった。さてと、この悪天候下でどうしたものか。小部屋に集まり、ヤギおじさんを中心に全員で今後の行動を話し合った。

 「今日のうちに下りるという手がひとつあります」と、ヤギおじさんが切り出した。それは、不確実な明日の天候を予想しての行動ではなく、今できる確実な安全策を取る、ということだった。昨日登って来たばかりの合流組が山頂に行かないまま下山しなければならない、などとは夢にも思わなかったが、それはどんな登山にも例外なくあり得ることだった。積極果敢に登ろうという気持ちをだれも持ち合わせていないかに思えたそのとき、なんと十歳のナオくんが正直な気持ちをぶつけてきた。「このまま下りるなんていやだ。頂上まで行きたい」。それならタカ坊はどうだ、と視線を向けると、「帰りたくない」と小さな声が返ってきた。七人のおとなたちで判断しても良さそうなものだが、二人の子どもたちの意向を組み取る余裕が、その時点での天候にも心にもまだ十分にあったようだ。



 荷物は山荘に置いたまま空身で山頂までを往復し、午後一時半には下山開始、という予定になった。そうと決まれば足取りは軽い。風雨の心配もほとんどなくコースタイムよりも早いペースで歩けたようだ。室堂を過ぎ山頂が近づくと風が強くなって来た。途中までは白山そのものが風を遮っていたわけで、日本列島を東西に分ける峰に立った気分になった。代わる代わる三角点に立ち記念写真を撮った。ガスに覆われ、晴れれば見渡せるアルプスの山並みはもちろん、眼下に広がる近隣の山さえ見えなかったが、ナオくんもタカ坊も、とりあえず標高2702mの白山の山頂に立ったのだ。

 下山時のコンディションは良好だった。ナオくんが途中でダダをこねたのは、親でもないぼくには愉快だった。まだ晴らし足りないうっぷんでもあったんだろうか。収まりのつかないナオくんに向かってヤギおじさんが言った。「山では自分の弱い部分を問われるんだよ」。いくらなんでも十歳の子には難しすぎる話だろうと思ったが、ナオくんはそれ以来何かに耐えるように黙々と歩きはじめた。おとなにも子どもにも、山道は自分の足で歩きながら、自分自身を見つめるところでもあるようだ。



 タカ坊は余裕が出て来たのか、度々立ち止まって写真を撮りはじめた。前との距離が空きすぎてはいけないと一度は早めの行動を促したが、待てよ、そうじゃないだろう、とぼくもまた自分の思いを見つめ直した。これは彼にとって、記念すべき初めての山登りだ。しかも一日予定を早めて下りてきた。今さらなにを慌てることがあるだろう。最終バスに乗れないなら乗れないで、いくらでも解決策はあるはずだ。十分に心ゆくまで撮るがいい。壮大な山の時間に比べれば、撮ることも生きることも、ほとんどあっという間に終わってしまう。などと、心の中でぶつぶつとつぶやきながら、タカ坊の狙った風景をぼくもまた真似して撮ってやった。

 いくらの活火山でも、白山がこの場を動くことはない。また登ればいいのだ。だれもがみんな自然から遠く離れてしまった現代人にはちがいないけれど、心がまた動き出したらいつでも飛んで来るがいい。いっしょにまた山の空気を腹一杯吸い込もうぜ。山頂や翠ケ池からのご来光は何度見ても震えてしまうんだから。

 

 霧に霞む弥陀ヶ原の木道が、またおいでよとささやきかけた。






| 21:47 | 白山 | comments(0) | trackbacks(0) | posted by マスノマサヒロ |
スポンサーサイト
| 21:47 | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://kazesan3.jugem.jp/trackback/563
<< NEW | TOP | OLD>>