kazesan3風の吹くままカメラマンの心の旅日記

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
小さな世界
 柄にもなく、シンポジウムというものを聞いてきた。石川県は白山麓の最奥にある旧白峰村を舞台につづいてきた「白山麓僻村塾」の創立二十周年記念の集いだった。パネリストには塾理事長の池澤夏樹さん、作家の塩野米松さん、小説家の辻原登さん、評論家の湯川豊さん、それに塾生を代表するように白山麓民族資料館館長の山口一男さんが加わっていた。メンバーの顔ぶれにも惹かれたが、なんと言っても「自然のそばで生きる」というタイトルに大いに興味を持った。

 告知のチラシは、「あなたは自然のそばで生きていますか。自然から遠く離れて生きていますか」と、さりげなく問いかけていた。豊かな自然環境のことばかりを言われても、こうまでそれとかけ離れてしまった現代社会を暮らす人間に、いったいなにを答えろと言うんだろうか。生き方とかライフスタイルとかは各人の意識や裁量でどうにでもなるだろうが、経済優先で流れてきた世の中で個人個人が自然を求めるだけでは全体のなにが解決するものでもないだろうと、ぼくなどはいつもどこかで思っていた。

 パネリストのみなさんは、少なくともそれぞれの精神的な環境で、自然のそばで生きているという印象を受けたが、中でも塩野さんの話には大いに共感した。塩野さんは手仕事をキーワードに話された。昔の地域社会は互いの顔が見える人と人のつながりがあった。それは、手仕事の技が人を育み、学び合う「小さな世界」だった、と説いた。それを受けた池澤さんからは、「都会のスーパーの陳列棚の向こうに畑はないのだ」と警告した。つまりは、そこには人が介在していない。作り手と使う側の間が途切れてしまっている。顔が見えないばかりか、人と人がつながっていないのだ。

 この話の流れの中で、自然とはなんだろうかと考えた。それは、人知を越えた高みで深さで、すべてがつながっていることでもあるだろう。奥山のクマが絶滅すれば、やがて人間社会も成り立たなくなってしまうという、そういうつながりのことだ。それを現代人は今、自ら放棄しようとしている。自然環境から離れ、自然のつながりを無視し、しかも隣人の顔を見失おうとさえしている。もう取り返しはつかないのだろうか。ごく一部の気づいた人たちが山に暮らして、さわやかな風を感じながら畑を耕し、それで弱り果てた日本は健康になっていくんだろうか。


 「あなたは自然のそばで生きていますか」。この問いかけは間違っているかもしれない。主語を「日本は」と改めるとわかりやすい。日本は今自然の中のどこに位置しているのだろうか。池澤さんが指摘した食料自給率は、東京ではなんと1パーセントだった。それを人間社会と言うのだろうか。あまりに恐すぎる話だ。

 シンポジウムの前半はこうして閉塞的な雰囲気さえ漂っていた。場の雰囲気を変えようと視点を変えることは簡単なことだったが、問題は残ったままなのだ。今はもう手仕事の時代は終わったそうだ。機械が作っている。受け継ぐべき技はコンピューターにインプットされ、テレビゲームの得意な若者がそれを操作する時代だ。自然界の循環に絶えることのなかった材料もまた、生かされずに消えていく運命にある。

 けれどもぼくには、塩野さんが使われた「小さな世界」という言葉が心に残った。技や伝統は消えていくかもしれない。だからと言って、むざむざと人のつながりまで消すことはない。誰にでも隣人があり、離れていても気心の知れた仲間がいるだろう。数は小さくていいのだ。小さな世界だからこそ、顔が見えて、心の揺れさえ感じるつながりを育てることができる。「あなたは自然のそばで生きていますか」とは、「自然のつながりの中で生きていますか」と言い換えていいのだ。自然環境とは、なにも海や山のことだけはないだろう。それを感じる心が人間にはそなわっている。心の森を、だれかとだれかがいっしょに育んで行けばいい。

 シンポジウムは夜遅くまで続いた。眠かったけれど、心が揺れていくらか興奮していた。小さな世界なら、だれかとぼくもいっしょに作れそうだ。会のはじめにあいさつされた創設者で作家の高橋治さんは、いくぶんお年を召された感じで、月日の流れをご本人が表していた。小さな世界はこうして脈々と受け継がれて行くのだろう。


| 12:11 | 日々のカケラ | comments(0) | trackbacks(0) | posted by マスノマサヒロ |
スポンサーサイト
| 12:11 | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://kazesan3.jugem.jp/trackback/315
<< NEW | TOP | OLD>>