kazesan3風の吹くままカメラマンの心の旅日記

| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE | OTHERS |
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
小さな抵抗
 人間の良心とは、どんなものだろう。これまで深く考えたことがなかった。

 葉っぱ塾のヤギおじさんにお願いして、『小さな抵抗』を読み伝える、と題されたコピーを送ってもらった。ヤギおじさんが、伯父の渡部良三さんが自費出版された『小さな抵抗』という歌集に寄せて書いた、内容を読みくだいた文章だ。ヤギおじさんはそれを三人の我が子にむけて書き残した。ぼくは静かに声を出して読みながら、学徒動員で戦地にかり出された渡部さんの生き様に感じ入り、そして父親として、なにが人生には大切なんだろうかと子らに問いかけたヤギおじさんに、思わず目頭が熱くなった。

 渡部さんは、当時中央大学の二年生だった。


 とちまんの書(ふみ)よむ願いたてしかど
               三千巻(みちまき)終えて往くはさびしき


 ヤギおじさんはこの歌に寄せて書いている。

 「この頃にはすでに日本の敗色は濃厚で、大勢の学生がまるで消耗品のように戦地へと送られていったのです。十万冊も本を読もうと思っていたのにその何分の一にも達しないうちに戦争に赴かねばならなかった無念は、ほとんど全ての学生の胸のうちにあったのでしょうね。今の時代、学ぼうと思えば自分の好きなだけ学べることの価値について思わないでいられません」。

 戦争のない今の時代。それを当たり前のことと思っているぼくがいる。そして気ままに毎日を暮らしている。学ぼうと思えば、ほんとうにいくらでも学べるのに。やってみようと、なんでも試すことができるのに。そしてぼくがそんなだから、ぼくの子らもさして変わらないかもしれない。ぼくが親を見て大きくなったように、ぼくを見て、子は育った。親が考えたように子も考えているとは限らないけれど、親から子へ、伝わるものが必ずあるだろう。何を伝えるのだ。その前に、ぼくは最後までどう生きようとしているのだ。

 1944年春、中国河北省深県に配属された新兵四十八人に、度胸をつけさせるためという目的と理由で、中国共産党軍の捕虜五人の虐殺が命じられた。その新兵らの中に渡部さんがいた。キリスト者で公然と戦争に反対した父を持つ渡部さんは、その命令を拒否、以後徹底した差別とリンチを受けることとなった。



 天皇(きみ)の給うみちうべならず(注:服従せず)胸内(むなうち)に
                      反戦の火(ほ)を燃やす兵あり

 戦友(とも)の振るう初のひと突きあばらにて剣(つるぎ)は止まる鈍き音して

 いのち乞わず八路の捕虜は塚穴のふちに立ちたりすくと無言に

 あらがわず否まず戦友(とも)ら演習に藁人形を刺す如く突く

 祈れども踏むべき道は唯ひとつ殺さぬことと心決めたり

 血と人膏(あぶら)まじり合いたる臭いする刺突銃はいまわが手に渡る

 虐殺(ころ)されし八路と共にこの穴に果つるともよし殺すものかや

 鳴りとよむ大いなる者の声きこゆ「虐殺こばめ生命を賭けよ」

 「捕虜殺すは天皇の命令(めい)」の大音声眼(まなこ)にするどき教官は立つ

 縛らるる捕虜も殺せぬ意気地なし国賊なりとつばをあびさる


 
 「はたして人間の行動の拠って立つべきものは何なのでしょうか。虐殺を拒否した伯父さんと、拒否しなかった47名の新兵たちとの違いは何であったのでしょうか。信仰であったというだけで説明できるものなのでしょうか。あなた方に最も考えてもらいたいのはそのことなのです。人は日々の生活のなかでたくさんの二者択一を繰り返していくように思います。あとから自分の人生を振り返ったときに、それらの選択の全てが誤りではなかったなどと思える人はいないかもしれません。しかし、その時々で最良の選択をすべく努力することは大切なことだと思います。そのことでたとえ孤立感を味わうようなことがあったとしてもです」。

 ヤギおじさんの子らに向けた言葉は、なんともやさしく、力強く染み込んでくる。

 ここまで一字一句を読みながら書き写してきたぼくは、また思っている。血のつながりとは、心を、生き様を伝えることなのではないかと。ぼくがヤギおじさんに出会い数年が経った。哀しみのまっただ中にあるとき勧めてくれた葉っぱ塾にも喜んで参加した。遠く山形に住んでいるのに、なぜか毎日のように思い出す人になっていった。ときにそれは妬みにも似た卑しい感情であったりもしたが、この人ならと、初めて人に対して信頼感を持つようになった。ヤギおじさんの家系には、きっとぼくが憧れてやまない冷静で潔い、そしてやさしい血が流れているような気がする。

 ヤギおじさんの最後の言葉がまた染みてくる。

 「判断の基準を『人間の良心』というところにおけば、間違いはなかろうと思うのです」。

 平和なこの時代でさえ良心を発揮するのはいつも容易いとはかぎらない。渡部さんは凄まじいリンチにも耐え、生き抜いて戦場のありさまを祖国に伝えようと、決意した。その一部がいま、ぼくの前にある。この歌たちは、ヤギおじさんの添えた言葉たちは、良心の奇跡と言えるようなものだ。

 そして、人間の良心とは、いったいどんなものだろう。ぼくには、人間の良心などと、簡単に言える資格があるだろうか。自分の胸に手をあてて、感じてみる必要がありそうだ。声高に反戦を唱えることは、今なら容易なことだが、それがほんとうに平和を希求する姿だろうか。ぼくの胸が少し痛い。良心の呵責というやつなら、静かにこのまま感じていたいものだ。渡部さんが決断した「小さな抵抗」は、けして小さくはなかった。

| 12:37 | 心の森 | comments(4) | trackbacks(0) | posted by マスノマサヒロ |
スポンサーサイト
| 12:37 | - | - | - | posted by スポンサードリンク |
Comment








 shihoちゃん。なんにも知らないのは、ぼくもおんなじ。きっとほとんどの日本人がそうかもしれないね。戦争の悲惨さは一般の報道からではほとんど伝わってこないように思います。知らされるのは戦いの状況ばかりで、ほんとうに苦しんでいるのはぼくらのような市井の人たち。だからこそ、放置はしておけない。戦争をしかける者たちやそこから利益を得ようとする存在を見抜く目を持ちたいものだよね。などと思うのですが、具体的にじゃあどうするのかと問われても、これとこれだ、なんて答えは、ぼくもまだ持っていません。「小さな抵抗」を貫いた渡部さんのような人がいた。それが、今、大きなヒントになっていますが。
posted by kazesan | 2008/09/07 8:51 PM |
言葉にはうまく表現できないけど、
読んで、胸がキューっと、キューっとなって、涙が溢れそうになりながら、こんな何も知らないわたしが泣いてしまっていいのかと必死で涙をこらえました。
やぎおじさん、やっぱりとっても素敵な方ですね。この前大阪でkazesanおじさんのおかげでお会いできてほんとうに嬉しかったです。感謝。多分この文章、何度も読み直すと思います。
posted by shiho | 2008/09/06 11:34 PM |
 心ある友がストレートに言ってくれたことは、「あなたは自分自身を責めるようなことばかり言うけれど、その程度のことは誰にもあることだ」というような話でした。確かにそうかもしれません。ぴかさんの言われるのと同じことのようです。でもぼくは、ぼくと人とを比較して自分を考えたいのではありません。自分の心の中をよくよく見ていると、とても人に言えない状態だったりします。たぶん誰もがそうだろうでは納得できないような気がします。こうして自戒しているふりをしながら、また明日には忘れていたりもします。だからでしょうか、何度も何度も自戒しながら、息をつないでいるのかもしれません。そうすると、周りのみんなが素晴らしいばかりの人に見えて、ぼくはまたひとり内にこもっていく、そんなパターンなのかもしれませんね。いやはや、自己分析もここまでくると、自分でもほめてやりたくなります。

 そして今日の話では、もっと大切にしたいことがあります。それは、誰も完璧ではないのに、平和な状態で愛だ光だ優しさだと言葉が先行しているのを聞くと虚しい思いがしたものですが、渡辺さんのように凄まじいばかりの良心を生きた人に出会うと、ただ圧倒されて、ぼくの薄っぺらな憤りなど吹っ飛んでしまいました。まさに、恐れ入りました、という感じです。良心に従うことはぼくもそうするつもりです。日常の範囲でならいくらでも可能なことです。果たして窮地に立ったときにもまだそれを全うすることができるのか。そんな良心のあるやなしやを、胸に手を当てて感じてみたいものだと思いました。
posted by kazesan | 2008/09/06 4:36 PM |
桝野さん、こんにちは。

その節は、美しい賛美歌のCDをありがとうございました。

あなたはいつもおっしゃいますね。

「自分にその資格があるのか?」

それを言われたら、誰とても、私には資格があるとは言えんですよ。

でも、今回のお話で、私はまた確かに生きる道を確認できました。

良心に従って生きて行く。

願わくば、それが叶う穏やかな世界でありますように。

突然に、失礼いたしました。

ありがとうございます。
posted by P | 2008/09/06 3:32 PM |
Trackback
この記事のトラックバックURL: http://kazesan3.jugem.jp/trackback/261
<< NEW | TOP | OLD>>