「日本の天然林を救う全国連絡会議」の代表世話人でもある、
河野昭一京都大学名誉教授のプロフィールを読んでいると、不思議と力がわいてきた。ぼくになにができるだろうかと、思いをめぐらす楽しみが生まれている。
北海道で電気もないランプ生活の幼少時代を過ごした氏は、目の前にあるフィールドの中で飛び回ったその生き方を生涯を通して貫いているのかもしれない。自由で反骨精神旺盛なとでも言えるような生き様を、ぼくは感じてしまう。専門の植物のようにしなやかで、子供のように奔放で、それでいてけして折れ曲がらない。こういう行動派の知識人がこの日本にいたのだと、今さら勉強をはじめてもどうしようもないぼくなのに憧れてしまう。
「世界的植物学者が『日本の天然林は絶滅の危機』と警告」という記事を見つけた。それは、2年前に札幌で開かれた「日本の天然林をなぜ守らなければならないか」と題した河野氏の講演会からの報告だった。海を隔てた熱帯雨林の破壊は報じられても、日本の天然林の危機的な状況を知る人はまだまだ少ないかもしれない。ぼくもようやく気づいたところで、だから少しでも早くこの情報が広がって欲しいと思う。
講演の記事を要約すると、日本の森林には氷河期前の第三紀に起源を持つ固有の植物が豊富に生育している。日本と北米大陸に広く分布していたのが氷河期に分断されたものと考えられている。大陸で発達した氷河は植物群を東部に追いやり、氷河の影響が少なかった日本列島では、第三紀起源の多数の植物が生き延びることとなったそうだ。
なんと壮大な話だろうか。豊かな日本の緑は、何百万年という気の遠くなるような時間が育んできたものなのだ。それを昨日や今日生まれた人間が、先の見通しも考えずに破壊しつづけている。
記事にはこんな興味深いものもあった。
遺伝子の研究から、ブナ林は様々な遺伝子型の個体によって構成されていることが分かってきた。 親木の周辺に子どものブナが集中しているのだ。同じように見える木々なのに、別個の系図を作っていたなんてちょっと驚きだ。けれど、これが問題になる。ブナの集団が大きいと遺伝子型も多様だが、小さな集団になってしまうと親木の個体数が減り、多様性が失われてしまう。つまりは小さくなったブナ林では絶滅する確率が高くなるそうだ。
ぼくはまだ現場を見たことはないけれど、林野庁はその天然林の中で親木を伐採し、重機で表土を剥ぎ取っているそうだ。だれにも見えないからと、縦横無尽なんだろうか。
「日本の天然林を救う全国連絡会議」のサイトから紹介すると、1950年代に日本の森林面積の38%ほどを占めていた原生的森林は、2002年には11%にまで減少している。たった50年の間に、何百万年が消えていった。戦後復興期の木材需要を賄おうと奥山を代表するブナの森を、林野庁は「ブナ退治」と称して大規模に伐採してしまう。天然林が生い茂る奥山のことを、「利用不能林」と称したそうだ。代わりに針葉樹を植林し造林を拡大していったが、木材輸入自由化による価格の下落などから目算がはずれ、独立採算制の国有林野事業は膨大な借金を抱えてしまった。そのやりくりのために、今なお大量の樹木を伐採するという悪循環に陥っている。
かたや絶滅危惧種を守れなどと声高に叫ぶ人間達は、一方で自然界の多様性を無視するかのように奥山を破壊しつづけている。どうしたものだろうかと、天の神は困り果てているだろうか。人間を二分することなどないけれど、ぼくはどちらの人間になろう。とりあえず、あまり時間がないので、心が向く方に動くことにした。
「国有林内の天然林を環境省に移管し保全する改革に関する請願書」の署名を集めてみようと思う。林野庁にはもう任せておけない。環境省ならそれが一挙に解決するのか。今のぼくにはよくわからない。でも、今のままではどうにも具合が悪すぎる。日本の緑を、ずっとずっと残したい。いつかまた氷河期がやってくるまで。
請願書署名用紙は、
「日本の天然林を救う全国連絡会議」のホームページにPDFファイルで収められているほか、希望すれば下記の事務局が送ってくれるそうだ。署名は8月いっぱい受け付けている。
事務局
〒967-0004 福島県南会津郡南会津町田島字後原甲3432
TEL: 0241−62−2674、FAX: 0241−62−2688
長沼勲、渡部康人